歯列矯正を終え、長年のコンプレックスだったガタガタの歯並びが綺麗に整った日。しかし、鏡を見て笑顔になった瞬間、思いがけないものに気づいて愕然とすることがあります。それは、前歯と前歯の間の、歯茎に近い部分にできた、黒い三角形の隙間。この正体こそが、「ブラックトライアングル」です。ブラックトライアングルは、虫歯や汚れではなく、歯肉退縮の結果として、本来そこにあるべき歯間乳頭(歯と歯の間の三角形の歯茎)が失われてしまうことで生じる審美的な問題です。なぜ、歯並びが綺麗になったのに、このような隙間ができてしまうのでしょうか。その原因は、主に二つ考えられます。一つは、「もともと重なっていた歯の形態」です。歯がガタガタに重なり合っていた時、歯と歯の間には、歯茎が入り込むスペースが元々存在していませんでした。矯正治療によって歯が整列すると、これまで隠れていた歯の本来の輪郭が現れ、もともとなかった部分が隙間として可視化されるのです。特に、歯の形が逆三角形に近い人は、この隙間ができやすい傾向にあります。もう一つの、より深刻な原因が、「歯槽骨の吸収」です。歯間乳頭の高さは、その下にある歯槽骨の高さによって決まっています。歯列矯正の過程や、もともとあった歯周病などによって、歯槽骨の頂上が吸収されて低くなってしまうと、その上の歯茎も一緒に下がってしまい、ブラックトライアングルが生じるのです。一度できてしまったブラックトライアングルを、完全に元通りにすることは非常に困難です。しかし、いくつかの方法で目立ちにくくすることは可能です。例えば、IPR(歯と歯の間をわずかに削る処置)で歯の形を長方形に近づけ、隙間を寄せて閉じる方法や、隙間の部分に歯科用プラスチック(コンポジットレジン)を詰めて埋める方法などがあります。大切なのは、矯正治療を始める前に、このようなブラックトライアングルが発生するリスクについて、担当医から十分な説明を受け、理解しておくことです。それは、治療後の「こんなはずじゃなかった」という後悔を避けるために、不可欠なプロセスなのです。