「歯列矯正を始めれば、長年のコンプレックスから解放される」。そんなキラキラした未来だけを想像していた私にとって、ワイヤー矯正の現実は、想像を絶する「痛み」との壮絶な戦いの始まりでした。初めてブラケットとワイヤーを装着した日。歯科医院を出る頃はまだ何も感じませんでしたが、その夜から地獄は始まりました。じわじわと、全ての歯が内側から締め付けられるような鈍い痛みが襲ってきたのです。翌朝には、歯が浮き上がってしまい、上下の歯が軽く触れただけで激痛が走るほど。楽しみにしていた朝食は、パンを噛みちぎることすらできず、ヨーグルトを流し込むのが精一杯でした。これが、あの有名な「豆腐しか食べられない期間」の幕開けです。しかし、本当の試練は月に一度の「調整日」の後にやってきました。ワイヤーを交換し、より強い力がかかった後の三日間は、まさに生き地獄。痛みで夜中に目が覚めることもしばしばで、処方された痛み止めが手放せませんでした。友人との食事の約束も、痛みのピークと重なると分かっていれば泣く泣く断るしかありません。さらに私を苦しめたのが、 relentlessな口内炎です。笑ったり、喋ったりするたびに、ブラケットが頬の内側を抉り、大小さまざまな口内炎が常に口の中に存在していました。食事の際には、食べ物がしみて激痛が走ります。矯正用ワックスは、私にとっての命綱。ワックスを米粒大に丸めてブラケットに貼り付ける作業は、毎食後の儀式となりました。正直、何度も「どうしてこんな辛いことを始めてしまったんだろう」と後悔しました。しかし、そんな痛みの中でも、鏡を見るたびに歯が少しずつ動いているのが分かると、それが唯一の希望になりました。そして数年後、ついに装置が外れた日。鏡に映った完璧な歯並びを見た瞬間、今までの全ての痛みが報われた気がして、涙が止まりませんでした。あの痛みがあったからこそ、この笑顔がある。ワイヤー矯正の痛みは、未来の自分への最高の贈り物だったと、今なら心からそう思えます。
ワイヤー矯正のリアルな痛みと闘った体験記