子供の頃から、私のコンプレックスは下の前歯にあった。一本だけ少し内側に入り込んでいる歯。普段は唇に隠れて見えないけれど、大きく笑うと、そのガタガタが影になって目立つ気がして、いつからか思いっきり笑うことができなくなっていた。上の歯並びは綺麗なだけに、余計に下の歯の乱れが気になって仕方なかった。社会人になり、ある程度自由に使えるお金ができた時、私はついに矯正歯科のカウンセリングへ向かった。「下の歯だけ、治せませんか?」という私の問いに、先生は精密検査の結果を見ながらこう答えてくれた。「あなたの場合は噛み合わせに大きな問題がないので、下の歯だけの部分矯正で大丈夫そうですね」。その言葉を聞いた瞬間、長年の悩みから解放される光が見えた気がした。私が選んだのは、取り外しが可能な透明なマウスピース矯正。約二週間ごとに新しいマウスピースに交換していくことで、少しずつ歯を動かしていく。初めのうちは、食事のたびに着脱するのが面倒だったし、新しいマウスピースに変えた直後の数日間は、じーんとするような独特の痛みもあった。でも、鏡の前でマウスピースを外し、歯が日に日に整列していくのを見るたびに、そんな苦労は吹き飛んでいった。治療期間は、わずか八ヶ月。最後のマウスピースを外し、後戻りを防ぐためのリテーナーに切り替わった日、私は鏡の前で、今までで一番大きな口を開けて笑ってみた。そこには、綺麗にアーチを描いた、完璧な下の歯並びがあった。たったそれだけのことなのに、顔全体の印象が驚くほど洗練されて見える。今では、人前で笑うことに何の躊躇もない。下の歯並びという、ほんの小さなコンプレックスの解消が、こんなにも私に自信を与え、世界を明るくしてくれるなんて、治療前の私には想像もできなかっただろう。