矯正歯科医として日々患者様と向き合う中で、「痛み」に関するご相談は最も多いものの一つです。ワイヤー矯正における痛みは、治療が順調に進んでいる証拠でもあるのですが、患者様にとっては大きなストレスであることも事実です。私たち専門家が、痛みとどのように向き合い、患者様にどうアドバイスしているのかをお話ししたいと思います。まず、私たちは痛みの原因を科学的に理解しています。歯を動かす際の歯根膜の炎症反応が、あの独特の鈍い痛みを引き起こします。この痛みには大きな個人差があり、同じ力をかけても全く平気な方もいれば、非常に強く痛みを感じる方もいらっしゃいます。そのため、私たちはカウンセリングの段階で、痛みの種類やピークの時期について事前に詳しく説明し、心の準備をしていただくことを大切にしています。治療においては、痛みを最小限に抑えるための工夫も行っています。例えば、治療初期は非常に細くしなやかなワイヤーから始め、段階的に太く強いものに交換していくことで、歯にかかる負担を緩やかにします。また、最新のワイヤーやブラケットの中には、弱い力で持続的に歯を動かすことに特化したものもあり、従来の装置に比べて痛みが軽減される傾向にあります。患者様には、痛みが強い時期の食事の工夫や、痛み止めの適切な使用法について具体的にお伝えします。特に強調したいのは、「我慢しすぎないでほしい」ということです。通常の調整後の痛みは数日で治まりますが、もし一週間以上痛みが続いたり、日常生活に支障をきたすほどの激しい痛みがある場合は、何か異常が起きている可能性も考えられます。ワイヤーが外れかかっていたり、装置が予期せぬ場所に当たっていたりすることもあります。そのような場合は、決して自己判断で放置せず、すぐにクリニックに連絡していただきたいのです。私たちは患者様の状態を常に把握し、適切な処置を施す準備ができています。痛みは、患者様と私たち医療者がコミュニケーションを取りながら、二人三脚で乗り越えていくべき課題です。不安なことは何でも相談してほしい、それが私たちの切なる願いです。
歯科医師が語るワイヤー矯正の痛みとの付き合い方