鈴木さん(28歳)の下顎は、常に少し前に出ていた。友人との会話では無意識に口元を隠し、横顔が写ることを極端に嫌った。彼女の受け口は、歯の傾きだけが原因ではない「骨格性」のものだった。いくつかの矯正歯科を巡り、彼女が最終的に選択したのは、外科手術を併用した矯正治療だった。治療はまず、手術で顎を正しい位置に動かした際に、歯がしっかりと噛み合うようにするための「術前矯正」から始まった。約一年間、矯正装置をつけて歯を動かす日々。そして、ついに手術の日がやってきた。全身麻酔のもと、口腔外科医が彼女の下顎の骨を切り、後方に移動させてプレートで固定する。数時間に及ぶ手術を終え、麻酔から覚めた彼女を待っていたのは、顔の大きな腫れと、口が開かないという現実だった。数日間の入院中は流動食のみ。話すこともままならず、筆談でコミュニケーションをとった。しかし、鏡に映る自分の顔は、腫れの中にあっても、長年悩み続けた下顎の突出が消えているのが分かった。退院後も「術後矯正」が続く。顎の位置は変わったが、噛み合わせをより精密に仕上げるための最終調整だ。腫れが完全に引くまでには数ヶ月かかったが、その変化は劇的だった。シャープになったフェイスライン、すっきりと収まった口元。治療を終えた今、鈴木さんは言う。「手術は怖かったし、辛いこともたくさんあった。でも、得られたものはそれ以上に大きい」。彼女の笑顔には、もう迷いも翳りもない。外科矯正は、彼女の顔だけでなく、人生そのものに光をもたらしたのだ。