歯列矯正治療を受ける際、誰もが気になるのが「治療期間」です。同じような歯並びに見えても、治療がスムーズに進む人と、思ったよりも時間がかかる人がいるのはなぜでしょうか。その鍵を握るのが、一人ひとりが持つ生物学的な特徴です。歯が動きやすい人には、いくつかの共通した生物学的特徴が見られます。最も大きな要因は「骨代謝の活発さ」です。歯列矯正とは、歯に持続的な力を加えることで、歯の周りにある歯槽骨という骨が吸収と再生を繰り返す「骨のリモデling(リモデリング)」という現象を利用して歯を動かす治療です。力がかかった側の骨が溶け(骨吸収)、反対側に新しい骨が作られる(骨添加)ことで、歯は少しずつ移動していきます。この骨の新陳代謝が活発な人ほど、歯はスムーズに動きます。一般的に、成長期にある若年者は成人よりも骨代謝が活発であるため、歯の動きが早い傾向にあります。これが「矯正は若いうちにした方が良い」と言われる大きな理由の一つです。また、歯を支える歯周組織、特に歯と骨の間にある歯根膜の健康状態も重要です。歯根膜は、矯正力を骨に伝える重要な役割を担っており、血行が良く健康な歯根膜を持つ人ほど、骨のリモデリングが効率的に行われます。歯周病などで歯茎に炎症があると、歯の動きが阻害されたり、予期せぬトラブルの原因になったりすることがあります。さらに、骨密度、つまり骨の硬さも歯の動きに影響します。骨密度が比較的低く、柔らかい骨を持つ人の方が、骨のリモデリングが起こりやすく、歯が動きやすいと考えられています。逆に、骨が非常に硬く緻密な人は、歯の移動に時間がかかることがあります。これらの生物学的な特徴は、自分自身でコントロールできるものではありませんが、治療開始前の精密検査である程度予測することが可能です。自分の体の特性を理解することが、適切な治療計画を立てる第一歩となるのです。
歯列矯正で歯が動きやすい人の生物学的特徴