歯列矯正とボトックス併用の新常識
歯列矯正は美しい歯並びを、ボトックス注射はシワの改善や筋肉の弛緩を目的とした治療であり、それぞれ独立した分野の施術として知られています。しかし近年、この二つを組み合わせることで、より高い治療効果や審美性を追求するアプローチが注目されています。歯列矯正中にボトックスを併用する主な目的は、大きく三つに分類されます。一つ目は、歯ぎしりや食いしばりといった「ブラキシズム」の緩和です。矯正装置による違和感やストレスから、無意識に歯を強く噛み締めてしまう人は少なくありません。この過度な力は、歯の移動を妨げたり、歯や顎に不必要な痛みをもたらしたり、さらには矯正装置の破損を招くリスクもあります。エラの筋肉である咬筋にボトックスを注射することで、この過剰な筋肉の働きを抑制し、矯正治療をスムーズかつ快適に進める助けとなります。二つ目は、「ガミースマイル」の改善です。笑った時に歯茎が過剰に見えてしまうガミースマイルは、その原因が歯の長さや位置にある場合は歯列矯正で改善が見込めます。しかし、上唇を上げる筋肉の力が強すぎることが原因の場合、矯正だけでは限界があります。この場合、上唇挙筋群にボトックスを注射し、唇の上がりすぎを抑えることで、理想的なスマイルラインを実現できます。そして三つ目は、顎にできる「梅干しジワ」の改善です。口を閉じようとする際に、顎の先端にあるオトガイ筋が過剰に緊張してできるシワですが、これもボトックスで筋肉の緊張を和らげることで、滑らかですっきりとした口元を作ることが可能です。このように、ボトックスは矯正治療の補助として機能的な問題を解決する側面と、審美性をさらに高める側面を併せ持っており、治療の選択肢を広げる有効な手段となり得るのです。