歯列矯正において、歯の動きやすさに個人差があることは広く知られています。今回は、矯正専門医である佐藤先生(仮名)に、その背景にある多様な要因について詳しくお話を伺いました。「歯が動きやすい人の特徴と一言で言っても、その要因は一つではなく、複数の要素が複雑に絡み合っています」と先生は語ります。まず、最も影響が大きいとされる「年齢」についてはどうでしょうか。「やはり成長期にある10代の患者様は、骨の新陳代謝が非常に活発なため、歯の動きは早いです。30代、40代と年齢が上がるにつれて骨代謝は緩やかになるため、一般的には時間がかかる傾向にありますが、これも個人差が大きく、40代でも非常にスムーズに進む方もいらっしゃいます」。次に、専門的な視点からの要因を伺いました。「レントゲンやCTによる精密検査で分かることも多いです。例えば、『歯根の形態』。歯根が円錐形で短い方は、比較的動きやすい傾向があります。逆に、歯根が長く、湾曲していたり、太かったりすると、骨の抵抗が大きくなり、動かすのに時間がかかることがあります。また、ごく稀ですが、歯根と顎の骨が癒着してしまっている『アンキローシス』という状態の場合、その歯は矯正力では全く動きません」。さらに、全身の健康状態も関係するとのことです。「骨粗しょう症の治療薬など、骨代謝に影響を与える薬を服用している方は、歯の動きが遅くなることがあります。そのため、カウンセリングでは必ず既往歴や服用薬についてお伺いします。また、喫煙習慣も歯の動きを妨げる大きな要因です。喫煙は血行を悪化させ、歯周組織の治癒能力を低下させるため、骨のリモデリングがスムーズに進まなくなります」。最後に、患者様自身の協力度の重要性について改めて強調されました。「結局のところ、どんなに動きやすい素質を持っていても、患者様ご自身がマウスピースの装着時間を守ったり、ゴムかけをしっかり行ったりといったご協力をいただけなければ、歯は計画通りには動いてくれません。生物学的な要因と患者様の協力度、この両輪が揃って初めて、治療はスムーズに進むのです」。
専門医に聞く!歯の動きを左右する多様な要因