「歯列矯正をすれば、小顔になれる」「エラの張りがなくなって、輪郭がシャープになる」。インターネットやSNSで見かけるこうした魅力的な言葉は、歯列矯正を検討している人にとって大きな希望となるでしょう。実際に、噛み合わせの改善によって咬筋の緊張が緩和され、結果としてフェイスラインがスッキリするケースは少なくありません。しかし、この「エラの変化」という副次的な効果に過度な期待を寄せることは、時に大きな失望に繋がりかねないため、注意が必要です。まず心に留めておくべきなのは、歯列矯正の第一の目的は、あくまで「歯並びと噛み合わせの改善」であるということです。虫歯や歯周病のリスクを減らし、食べ物をしっかり噛めるようにし、発音を明瞭にする。これらが、歯列矯正が目指す本来のゴールです。エラの変化は、その過程で得られる可能性のあるボーナスのようなものと捉えるのが賢明です。エラの張りの原因が、骨格そのものにある場合、歯列矯正だけでその輪郭を変えることは不可能です。顎の骨を切るなどの外科手術を伴わない限り、骨の形や大きさは変わりません。ご自身のエラ張りの原因が、骨格なのか、それとも筋肉の発達によるものなのかを正確に知るためには、専門医による精密な診断が不可欠です。また、筋肉性のエラの張りであっても、その変化の度合いには非常に大きな個人差があります。もともとの筋肉量や生活習慣、歯ぎしりの癖の強さなど、様々な要因が絡み合うため、「必ずこれだけ変化する」という保証はどこにもありません。もし、エラの変化のみを強く望んで高額な矯正治療に踏み切った場合、思ったほどの変化が得られなかった時に「こんなはずではなかった」と後悔してしまう可能性があります。歯列矯正は、あなたの口腔内、そして全身の健康に寄与する素晴らしい治療です。その本質的な価値を見失わず、エラの変化は「起きたらラッキー」くらいの気持ちで臨むことが、長い治療期間をポジティブに乗り越え、最終的な結果に満足するための大切な心構えと言えるでしょう。