念願だった歯列矯正を開始して数日後、私は早くも後悔の念に駆られていました。歯が浮くような、じんじんと続く痛み。それは誰もが通る道だと頭では分かっていましたが、私の場合は明らかに様子が違いました。朝、目覚めると顎の付け根が鉛のように重く、こめかみには鈍い頭痛が走るのです。原因は、昔からの私の悪い癖、「食いしばり」でした。日中、集中している時も、眠っている間も、無意識のうちに奥歯をギリギリと強く噛み締めてしまう。矯正装置という異物が口の中に入ったことで、その癖がさらに悪化してしまったようでした。ワイヤーを調整した後の数日間は、まさに地獄でした。歯が動く痛みと、食いしばりによる筋肉の痛みがダブルで襲いかかり、食事もままなりません。このままでは矯正治療を続けられないかもしれない。そんな不安に駆られ、担当の歯科医に泣きついたところ、意外な提案を受けました。「咬筋ボトックスを試してみますか?」と。美容医療のイメージが強かったボトックスが、食いしばりの治療にも使われるというのです。藁にもすがる思いで、紹介されたクリニックの門を叩きました。施術は驚くほどあっけなく、エラの張っている部分に数カ所注射するだけ。効果が現れ始めたのは、それから二週間ほど経った頃でした。ふと気づくと、朝のあの重苦しい顎のだるさが、嘘のように軽くなっていたのです。試しに奥歯をぐっと噛み締めてみても、以前のような岩を噛むような力は入りません。そして次の調整日、奇跡が起こりました。もちろん痛みはありましたが、それは歯が動くための「正常な」痛みだけで、以前のような耐え難い苦痛はなかったのです。ボトックスは、私の矯正生活の質を劇的に向上させてくれました。歯並びを治す過程で生じる痛みを、別の医療の力でコントロールする。そんな選択肢があることを、同じように悩む人に伝えたいと心から思います。
矯正の痛みを増幅させた私の食いしばりとボトックス体験