「もう、最高!」矯正装置が外れた日、私は空に向かってそう叫びたい気分でした。二年半という長い期間、私の青春と共にあったブラケットとの別れ。手に入れたのは、雑誌のモデルのような、完璧に整った歯並びでした。その日から、私の人生はバラ色に変わりました。コンプレックスだった口元を隠すことなく、人前で堂々と笑える。写真に写る自分の笑顔が、大好きになりました。治療後、先生からは「後戻りを防ぐために、リテーナーを必ず使ってくださいね」と、口を酸っぱくして言われていました。最初の半年ほどは、真面目に、毎日欠かさず装着していました。しかし、新しい生活にも慣れ、歯並びが安定しているように感じ始めると、私の心には「油断」という魔物が忍び寄ってきたのです。「一日くらい、いいか」「飲み会で外して、そのまま寝ちゃった」。そんな日が、少しずつ増えていきました。リテーナーの装着は、いつしか私の生活からフェードアウトしていました。それから、約3年が経った頃でしょうか。ふと洗面所の鏡で自分の歯をじっと見た時、私は違和感を覚えました。上の前歯と二番目の歯の間に、ほんのわずかな隙間ができている気がする。そして、下の前歯が、少しだけ重なり始めているような…。気のせいだと思いたかった。でも、その日から、私はまた、無意識のうちに口元を手で隠して笑うようになっていました。不安に駆られ、昔の写真と見比べてみると、その差は歴然。あの完璧だった歯並びは、もはやどこにもありませんでした。あの輝いていた笑顔は、失われていたのです。私は、震える手で、3年ぶりに矯正歯科に電話をかけました。先生は、私の口の中を見るなり、悲しそうな顔で一言、「リテーナー、ちゃんと使ってなかったでしょう」。その言葉が、私の胸に深く突き刺さりました。結果として、私は再治療を決意しました。部分的な矯正で済むとのことでしたが、それでも、再び数十万円の費用と、一年近い時間が必要でした。全ては、私自身の油断と怠慢が招いた結果です。あの日の解放感を、あの笑顔を、二度と手放さないために。今、私は、誰よりも真面目にリテーナーと向き合っています。