歯列矯正でエラが張った彼女がボトックスを選んだ理由
都内のIT企業で働く中村さん(仮名・26歳)が歯列矯正を始めたのは、長年のコンプレックスだった八重歯を治したいという一心からだった。しかし、治療開始から半年ほど経った頃、彼女は鏡の中に予想外の変化を見出すことになる。フェイスラインが、以前よりも角ばって見えるのだ。気のせいかと思っていた矢先、久しぶりに会った友人から「なんだか雰囲気変わった?少しエラが張った感じがするね」と指摘され、彼女の不安は確信に変わった。原因は、矯正装置の違和感からくる無意識の食いしばりにあった。常に口の中に異物がある感覚に慣れず、知らず知らずのうちに奥歯を強く噛み締める癖がついてしまったのだ。その結果、エラの部分にある咬筋が必要以上に鍛えられ、筋肉そのものが肥大してしまったのである。歯並びは綺麗になってきているのに、顔の輪郭がごつくなってしまうという、何とも皮肉な状況。悩んだ末に担当の歯科医に相談したところ、咬筋ボトックスという治療法を提案された。筋肉の働きを弱める注射で、発達しすぎた咬筋を小さくすることができるという。中村さんは、審美歯科も併設しているクリニックでカウンセリングを受け、施術を決意した。施術後、劇的な変化がすぐに現れたわけではない。しかし一ヶ月ほど経つと、朝起きた時の顎の疲労感がなくなり、徐々にフェイスラインがすっきりしていくのが分かった。三ヶ月後には、矯正を始める前のシャープな輪郭を取り戻すことができていた。歯列矯正という大きなプロジェクトの過程で生じた、思わぬ副作用。それを解決してくれたのは、ボトックスという別の角度からのアプローチだった。中村さんの事例は、歯並びを整える過程で生じる様々な問題に対し、複合的な治療法を検討することの重要性を示している。