Aさん(24歳)は、物心ついた頃から自分の横顔が好きではありませんでした。友人たちとスマートフォンで写真を撮り合う時も、無意識に正面からの角度を選び、横顔が写り込まないようにしていました。彼女の悩みは、少し丸みのある鼻と、それ以上に気になる口元の突出感でした。「鼻が特別低いわけではないのに、口元が出ているせいで、顔全体が平坦に見えるんです」とAさんは語ります。彼女は、このコンプレックスを解消したい一心で、矯正歯科のカウンセリングを受けることにしました。精密検査の結果、Aさんの口元の突出は、上下の歯が前方に傾斜していることが原因だと診断されました。担当医は、治療計画を説明する中でこう付け加えました。「歯列矯正で、Aさんの鼻の形そのものを変えることはできません。しかし、抜歯をして前歯を後ろに下げることで、口元は大きく変化します。その結果、横顔全体のバランスが整い、今とは全く違う印象になるでしょう」。その言葉に希望を見出したAさんは、矯正治療を決意しました。治療は、決して楽なものではありませんでした。装置の痛み、食事の制限、そして何より、本当に変われるのかという不安。しかし、月日が経つにつれて、鏡の中の自分の顔に少しずつ変化が現れ始めました。口元が徐々に下がり、口を閉じるのが楽になってきたのです。そして治療開始から約二年後、ついに装置が外れました。歯科衛生士から手鏡を渡され、恐る恐る自分の横顔を映したAさんは、息を呑みました。そこには、長年夢見てきた、すっきりと整った横顔の自分がいたのです。突出していた口元は理想的な位置に収まり、相対的に鼻筋が通って見え、顎のラインもシャープになっていました。鼻の丸みは変わっていないはずなのに、以前のようなコンプレックスは不思議と感じません。「パーツの形ではなく、全体のバランスだったんですね」とAさんは微笑みます。彼女が歯列矯正で手に入れたのは、単に美しい歯並びだけではありません。それは、どんな角度から見られても臆することのない、揺るぎない自信でした。