ガミースマイル、すなわち笑った時に上顎の歯茎が過度に露出する状態は、多くの人にとって審美的な悩みの一つです。その改善法として歯列矯正が第一に挙げられますが、原因によってはボトックス注射が極めて有効な補助療法となり得ます。その科学的なメカニズムを理解するためには、まずガミースマイルの原因を分類する必要があります。骨格的に上顎が長い場合、歯の長さが短い場合、そして上唇を動かす筋肉の活動が強すぎる場合など、原因は多岐にわたります。このうち、歯列矯正が主にアプローチするのは歯の位置や角度の問題です。一方で、ボトックス注射がターゲットとするのは、筋肉の過活動です。私たちの口元には、上唇を引き上げる役割を持つ「上唇挙筋」や「上唇鼻翼挙筋」といった複数の筋肉が存在します。これらの筋肉の働きが生まれつき活発な人は、笑った時に必要以上に上唇が引き上げられ、結果として歯茎が大きく見えてしまうのです。ボトックスの主成分であるボツリヌス・トキシンは、神経終末からのアセチルコリンという神経伝達物質の放出を阻害する作用を持っています。これにより、神経から筋肉への命令伝達がブロックされ、筋肉の収縮が一時的に弱まります。ガミースマイル治療では、この作用を利用し、原因となっている上唇挙筋群に極めて少量のボトックスを正確に注射します。すると、筋肉の過剰な収縮が抑制され、笑った時の上唇の上がり幅が小さくなり、歯茎の露出が自然に抑えられるのです。この効果は永続的ではなく、通常3ヶ月から半年ほどで薄れていきますが、歯列矯正で歯並びの土台を整えながら、ボトックスで唇の動きをコントロールすることで、より理想的なスマイルバランスを達成することが可能になります。