「歯並び、治したいな」という漠然とした思いを抱えて、私が初めて歯列矯正のカウンセリングに足を運んだのは、社会人三年目の春でした。インターネットで「カウンセリングで聞くことリスト」を検索し、びっしりとメモを手に、少し緊張しながらクリニックのドアを叩いたのを覚えています。費用、期間、治療法の種類。リストアップした質問を一つずつ事務的にこなしていく中で、ふと、担当してくれた先生が私の顔をじっと見て、「一番治したいところ、気になっているのはどこですか?」と優しく尋ねてくれました。その一言で、私の緊張はふっと解けました。私は、ただ受け口を治したいというだけでなく、笑った時に歯茎が見えすぎてしまうこと、そして横顔のラインがずっとコンプレックスだったことを、堰を切ったように話し始めました。先生は私の話を遮ることなく、うんうんと頷きながら聞いてくれました。そして、私の悩みを一つひとつ専門的な視点から解説し、それぞれの悩みにどの治療法がどうアプローチできるのかを、PCのシミュレーション映像を見せながら丁寧に説明してくれたのです。この時、私はハッとしました。事前に調べたリストを消化することに必死で、一番大切な「自分の悩みや理想をきちんと伝える」という視点が抜け落ちていたことに気づかされたのです。私が本当に聞いてよかったことは、「この治療法で、私のこの悩みはどれくらい改善されますか?」という、自分の理想と治療結果をすり合わせるための質問でした。また、「先生がもし私の立場だったら、どの治療法を選びますか?」という少し踏み込んだ質問もしてみました。先生は少し考えた後、それぞれのライフスタイルや価値観に触れながら、客観的な視点でのアドバイスをくれました。この対話を通じて、私はこの先生になら任せられるという強い信頼感を抱くことができました。これからカウンセリングに行く方には、ぜひ自分の言葉で、自分の理想や不安を伝えることを恐れないでほしいと思います。技術や費用はもちろん大切ですが、最終的に長い治療を伴走してくれるのは「人」です。心から信頼できるパートナーを見つけることこそ、カウンセリングの最も重要な目的なのかもしれません。