歯列矯正が顔の印象を大きく変えることがあるのはなぜか。その答えは、審美歯科の世界で用いられる二つの重要な指標、「Eライン」と「鼻唇角」を理解することで見えてきます。これらは、横顔の美しさを客観的に評価するための基準であり、歯列矯正、特に口元の突出を改善する治療において劇的に変化する可能性があるのです。まず「Eライン(エステティックライン)」とは、顔を横から見た時に、鼻の先端と顎の先端を直線で結んだラインのことを指します。このEラインに対して、唇がどの位置にあるかが、横顔のバランスを評価する上での一つの目安となります。理想的なEラインでは、上唇がラインに軽く触れるか少し内側にあり、下唇はラインよりもさらに内側にある状態とされています。しかし、歯が全体的に前に出ている「上下顎前突(口ゴボ)」の方の場合、唇がEラインから大きくはみ出してしまい、口元がこんもりとした印象を与えます。抜歯などを伴う歯列矯正で前歯を後方に移動させると、この突出した口元が後ろに下がり、唇がEラインの内側に収まります。その結果、これまで口元の突出に埋もれていた鼻と顎のシルエットが強調され、シャープで知的な横顔が生まれるのです。次に「鼻唇角(びしんかく)」です。これは、鼻の底(鼻柱)と上唇とがなす角度のことを指します。日本人の理想的な鼻唇角は90度から100度程度と言われていますが、上顎が前に出ていると、上唇が前方に押し出されるため、この角度が90度よりも小さく、鋭角になってしまいます。これが、鼻の下が詰まったような、もたついた印象を与える原因です。歯列矯正によって上顎の前歯を後退させると、上唇の位置も自然と下がり、鼻唇角が理想的な角度に近づきます。これにより、鼻の下のラインがスッキリとし、上品で洗練された口元を演出することができるのです。このように、歯列矯正は、団子鼻そのものを変えるのではなく、Eラインや鼻唇角といった客観的な指標を改善することで、顔全体の調和を整え、結果として鼻の見え方までポジティブに変える力を持っているのです。
歯列矯正で変わるEラインと鼻唇角の秘密