歯列矯正で奥歯に装着される装置には、大きく分けて「バンド」と「チューブ」の二種類があります。どちらも主たる目的は、アーチワイヤーの末端を保持することですが、その構造と特性は大きく異なり、患者様の歯並びの状態や治療計画によって使い分けられます。歯科医師がどちらを選択するかには、明確な理由が存在するのです。まず「バンド」は、第一大臼歯や第二大臼歯といった奥歯に、指輪のようにすっぽりと被せる金属製のリングです。歯の全周を覆うため、非常に強力な固定力を得られるのが最大のメリットです。抜歯を伴う矯正治療で前歯を大きく後方へ移動させる際など、奥歯を強固な固定源(アンカー)として利用したい場合に絶大な効果を発揮します。また、ヘッドギアや上顎を拡大する装置など、大きな力をかける必要のある補助装置を連結する際の、頑丈な土台としても不可欠な存在です。一方のデメリットは、装着に手間がかかる点です。事前に歯間に隙間を作るための「青ゴム」を入れる期間が必要であり、装着後は歯と装置の間に汚れが溜まりやすく、清掃が煩雑になるという側面もあります。対して「チューブ」は、前歯につけるブラケットと同様に、歯の頬側の表面に直接接着剤で固定する小さな装置です。歯の全周を覆わないため、清掃が比較的容易で、装着時に青ゴムを入れる必要もありません。見た目もバンドに比べて目立ちにくく、患者様の負担が少ないのが利点です。しかし、その固定力はバンドには及びません。接着面積が小さいため、強い力がかかった際に外れてしまうリスクがあります。また、複雑な補助装置を連結する機能も持っていません。したがって、チューブが選択されるのは、非抜歯で歯を大きく動かす必要がないケースや、治療の最終段階で微調整を行う場合など、比較的ライトな治療計画の場合が多いと言えます。あなたの口の中にバンドが装着されているとしたら、それはあなたの歯並びを根本から改善するために、それだけ強力な力と確実な固定が必要であるという、歯科医師の判断の表れなのです。
矯正バンドとチューブその違いと選択の理由