歯列矯正が辛すぎてやめたいと思った日
ワイヤーをつけて三日目の朝、私は本気で矯正をやめたいと思っていました。頭では分かっていたのです。歯が動くのだから痛いのは当たり前だと。でも、想像を絶する痛みでした。全ての歯が根っこから浮き上がり、じっとしていてもズキズキと脈打つような痛みが続くのです。楽しみにしていたランチも、豆腐の味噌汁をすするのが精一杯。大好きな唐揚げを前にして、ただ見つめることしかできない絶望感。夜になれば、今度は口内炎が私を襲いました。ブラケットが当たっている頬の内側が真っ赤に腫れ上がり、口を閉じることさえ苦痛でした。痛くて眠れず、枕元に置いた痛み止めを何度も飲もうか迷い、結局気休めにしかならないまま、長い夜を過ごしました。鏡に映る自分の顔を見るのも嫌でした。ワイヤーがギラギラと光り、口元がもっこりと膨らんで見える。こんな顔でこれから二年間も過ごすのかと思うと、涙がこぼれました。時間もお金もかけたのに、こんなに辛い思いをするなんて。いっそ全部外してしまいたい。そんな衝動に駆られ、スマートフォンの検索窓に「歯列矯正 やめたい」と打ち込んだのは、一度や二度ではありません。そんな絶望の淵にいたある日、何気なく歯を磨いていると、ほんの少しだけ、本当にミリ単位で、重なっていた前歯の角度が変わっていることに気がつきました。あんなに頑固だった歯が、動いている。この耐え難い痛みは、無駄じゃなかったんだ。その小さな発見が、暗闇の中に差し込んだ一筋の光のように感じられました。まだまだ辛い日々は続くでしょう。でも、この光がある限り、私はもう少しだけ頑張ってみよう。そう、心に誓ったのです。