私の相棒は透明なマウスピース矯正生活
「歯列矯正を始めます」。そう友人に宣言した時、返ってきたのは「え、全然分からない!」という驚きの声だった。それもそのはず、私の口の中には、あの金属の装置ではなく、薄くて透明なマウスピースがはまっていたからだ。私が選んだのは、インビザラインと呼ばれるマウスピース矯正。接客業という仕事柄、どうしても目立つ装置には抵抗があった私にとって、この「透明」という選択肢は唯一の希望だった。実際に装着してみると、その透明度は想像以上だった。よほど至近距離で口元を凝視されない限り、矯正をしていることに気づかれることはまずない。これは、私にとって何よりの精神的な支えとなった。しかし、この透明な相棒との生活は、自己管理との戦いでもあった。食事のたびにマウスピースを外し、食後は歯磨きをしてから再び装着する。この一連の作業は、初めのうちはかなり面倒に感じた。外したマウスピースをナプキンにくるんで、うっかり捨てそうになったことも一度や二度ではない。また、「一日20時間以上の装着」というルールは絶対だ。装着時間が短いと、計画通りに歯が動かず、治療期間が延びてしまう。飲み会でついつい外しっぱなしにしてしまい、夜中に慌てて装着するなんていう失敗も経験した。それでも、私はこの透明な相棒との生活を後悔していない。なぜなら、歯が少しずつ動いていく様子を、マウスピースを交換するたびに実感できるからだ。鏡の前でマウスピースを外し、綺麗に並んでいく自分の歯を見る瞬間は、何物にも代えがたい喜びがある。目立たないという安心感と、自分の頑張りが目に見える達成感。この二つを与えてくれる透明なマウスピースは、もはや私の体の一部であり、理想の笑顔へと導いてくれる、かけがえのないパートナーなのだ。