田中さん(仮名・28歳)は、長年自分の横顔に強いコンプレックスを抱えていた。原因は、前方に突き出た口元、いわゆる「口ゴボ」だった。そのせいで唇は常に前に押し出され、意識しないと口がぽかんと開いてしまう。友人との会話中も、食事中も、常に口元を隠すような仕草が癖になっていた。写真を撮られるのも苦手で、特に横からのアングルは断固として拒否してきた。「このまま一生、口元を気にして生きていくのは嫌だ」。そう決意した彼女は、26歳の時に歯列矯正専門のクリニックの門を叩いた。精密検査の結果、彼女の口ゴボを根本的に改善するには、上下左右の小臼歯を計4本抜歯し、そのスペースを利用して前歯を大きく後退させる必要があると診断された。健康な歯を抜くことへの抵抗はあったが、「これで人生が変わるなら」と治療に踏み切った。矯正装置をつけた当初は、痛みや口内炎、そして何より見た目の変化に戸惑う日々が続いた。しかし、ワイヤーの調整を重ねるごとに、鏡の中の自分の口元が少しずつ、しかし確実に変化していくのを実感できた。前に突き出ていた歯が内側に入り、それに伴って唇が自然な位置に収まっていく。治療開始から約二年半後、ついに装置が外れた日。田中さんは鏡に映る自分の姿を見て、思わず息をのんだ。そこには、長年悩み続けた口ゴボの面影はどこにもなく、すっきりと洗練された横顔があった。分厚く見えていた唇は上品な薄さになり、鼻と顎先を結ぶEラインの内側に美しく収まっている。何よりの変化は、彼女の表情だった。以前のような卑屈な影はなく、自信に満ちた明るい笑顔がそこにあった。今では、田中さんは口元を隠すことなく、人と話すことを心から楽しんでいる。友人とカフェに行き、横顔が写ることも気にせず、楽しそうに笑い合う。歯列矯正は彼女の唇の形を変えただけでなく、彼女の内面にまでポジティブな光を当て、新しい人生の扉を開いてくれたのだ。